京都地方裁判所 昭和24年(ワ)164号 判決
原告 田中久太郎
被告 沢田幸三
一、主 文
被告は原告に対し別紙目録記載の家屋を明渡せ。
訴訟費用は被告の負担とする。
本判決は原告において金参万五千円の担保を供するときは仮に執行することができる。
前項の仮執行は被告において金六万円の担保を供するときは、これを免れることができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として原告は被告に対し昭和二十一年七月十五日主文第一項掲記の家屋を一ケ月賃料金二千五百円、毎月一日その月分前拂持参支拂の約定で賃貸した。しかるに被告は昭和二十三年九月分以降の賃料を支拂わないから昭和二十四年一月二十七日内容証明郵便を以て、右の延帶賃料を同郵便送達後三日以内に支拂をなすべき旨の催告並に若しこれに應じないときは、これを條件として右賃貸借を解除する旨の通知を発し、右郵便は其の翌日被告に到着したに拘わらず右期間内にその支拂をしなかつたものである。よつて右の賃貸借契約は右の期間満了である同月末日の経過によつて解除されたから、原告は被告に対し本件家屋の明渡を求めるため本訴請求に及んだと陳述し、被告の答弁事実に対し本件家屋の賃料については旧地代家賃統制令による届出又は地代家賃統制令による認可のないことは認める。昭和二十三年十月十一日以降二・五倍の値上げを請求した事実はあるがその余の被告の答弁事実は否認すると陳述した。<立証省略>
被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決並に敗訴のときは担保を條件とする仮執行の宣言を求める旨申立て、答弁として原告主張事実中、原被告間に本件家屋につき原告主張の日時に主張の如き賃貸借契約の成立したこと、原告主張日時に主張の如き内容証明郵便の到着したこと、原告主張の月から賃料を延滞していることはいづれも認めるが原被告間に十年間賃料を値上げしない特約があつた。仮に右の特約がなかつたとしても右の賃料は旧地代家賃統制令による届出(停止統制額)地代家賃統制令による認可(認可統制額)がないからいづれたしても右の約定賃料の値上げが出來ないに拘らず、昭和二十三年九月頃昭和二十三年十月十一日施行の物價廳告示第一〇一二号によつて家賃は修正されたとして原告は一方的に金二千五百円の三倍に賃料の値上げを請求して來たので、被告は之を拒絶して約定賃料を提供したのであるが原告においてその受領を拒んだのであるから、賃料延滞の責は被告にはない。從つて原告の賃貸借契約解除の意思表示は其の効力を生じないものであると陳述した。<立証省略>
三、理 由
本件家屋について原告主張日時に主張の如き賃貸借契約が原被告間に成立したことは当事者間に爭いのないところである。証人村上恒、同島津源吉、同田中久之助、同下瀬哲六の各証言並に成立に爭のない甲第二号証の一、二によると本件家屋について原被告間に賃貸借契約を締結する際、賃料は十年間値上げしないという特約を結んだ事実は認められないし、昭和二十三年十月十一日施行の物價廳告示第一〇一二号によつて公定家賃の修正が一般に認められるにいたつたので、原告は被告に対し昭和二十三年十月頃右の告示による家賃修正の一般の例にならつて昭和二十三年十月十一日以後の家賃を一ケ月金二千五百円の二・五倍に値上げするように請求したが被告において之に應じなかつたことが認められる。右の認定と牴触する被告本人の訊問の結果はたやすく信用し難い。而して右金二千五百円の賃料については旧地代家賃統制令による届出(停止統制額)も地代家賃統制令による認可(認可統制額)もないことは原告において認めて爭わないところである。そしてかような家賃は直ちに右の昭和二十三年十月十一日施行の物價廳告示第一〇一二号による家賃修正率に從つて値上げを請求することが出來ないものであるから、右認定の原告の値上げの請求は違法なものであるといわなければならない。しかるに昭和二十三年九月分及同年十月十日迄の分の賃料は勿論値上げを請求された昭和二十三年十月十一日から昭和二十四年一月分迄についても一ケ月金二千五百円の割合の賃料の支拂のないことは当事者間に爭のないところである。被告は右の各賃料を原告に提供したが、原告においてその受領を拒絶したと主張するがこれを認むるに足るような証拠はない。原告主張の日時に主張の如き内容証明郵便で延滞賃料の催告並に條件附賃貸借契約解除の通知のあつたこと、同郵便は同月二十八日被告に到着したことは当事者間に爭のないところである。よつて右の契約解除の前提としての催告の効力について判断すると、成立に爭のない甲第二号証の一、二によると昭和二十三年九月分以降昭和二十四年一月分迄の賃料合計金二万六千二百五十円の催告即ち昭和二十三年九月分及び同年十月十日分の一ケ月の約定賃料金二千五百円の割の延滞賃料並に昭和二十三年十月十一日以降昭和二十四年一月分迄の右金二千五百円の二・五倍の一ケ月金六千二百五十円の割の賃料の催告であることが計数上明らかに認められる。そして右の昭和二十三年十月十一日分以降の値上げ請求が違法であることは前段認定の通りである。しかしかような不当の部分を包含する催告であつても、延滞賃料の履行を目的とする以上その相当部分についての催告たるを失わない。少くとも昭和二十三年九月分、同年十月十日分の一ケ月の約定賃料金二千五百円の割合の延滞賃料の催告たるの効力ありとみるべきものである。そして昭和二十三年九月分同年十月十日迄の分は勿論昭和二十三年十月十一日以降昭和二十四年一月分迄についても被告において約定賃料額を提供した事実のないことは前段認定の通りであつて、又約定賃料額では或は少くなくとも昭和二十三年九月分及び同年十月十日迄の分については原告においてその受領を拒否する意思をなしたものとみる特段の事情は本件にはないから、いづれも契約解除の前提である催告としての効力のないものとすることは出來ない。そして本件においては右の催告に定めた三日の期間も相当と認められ、その期間内に全然延滞賃料の提供がなかつたのであるから、本件の賃貸借契約は右の催告の被告に到着した昭和二十四年一月二十八日から指定期間の三日を経た同月末日の経過によつて解除せられたものということができる。
そうだとすると本件賃貸借契約の解除を前提として本件家屋の明渡を求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を、仮執行並に仮執行免除の宣言について同法第百九十六條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 石崎甚八)